厚生局の個別指導、監査

保険医療機関等(医科、歯科、薬局、柔整)への指導監査の情報提供をします。

薬局の個別指導、取消しの実例

前回は、歯科の診療所、歯科医院への個別指導と監査、保険医の取消の実例について説明しました。今回は、歯科ではなく薬科、すなわち薬局への、保険調剤に係る個別指導、監査、取消処分の実例を2つご紹介します。

なお、薬局の行政処分については、厚生局による個別指導、監査、指定の取り消しの一連の枠組みに加え、保健所・都道府県による業務改善命令、業務停止命令の処分の枠組みにも、十分に留意することが必要です。薬局への保健所や都道府県による行政処分(業務改善命令、業務停止命令)についても、必要に応じ、確認等することが求められます。

 

1 情報提供での個別指導の実例

厚生労働省九州厚生局の公表資料によれば、薬局への個別指導の実施の端緒、そして薬局が監査に至る経緯は以下のとおりです。ポイントは、情報提供による個別指導があり、いったんは監査とならず再指導で済んだものを、その後、改善ができず、改めることができず、不正請求を継続したため、監査となり、取消しに至ってしまった、という点です。再指導となった場合は、当然ながら、厚生局からの指導での指摘事項をあらため、適切な保険調剤請求を行うことが肝心です。

1 景品の配布、一部負担金の減免の情報提供による個別指導
景品などの配布、そして一部負担金の減免が行われているとの情報提供が、厚生局に対してありました。そこで、個別指導が実施され、その際は監査への移行はなかったものの、その後も、毎年度、個別指導が実施されていました。

2 不自然な薬剤服用歴の記録のための個別指導の中断
その薬局に対して個別指導を実施したところ、お薬手帳へ貼付または記載をすることなく、手帳用シールを提供(手交)したのみ(この場合、34点)であるにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料(お薬手帳へ手帳用シールを貼付または記載をした場合、41点)を一律に算定しているとの説明がなされたこと、薬剤服用歴の記録について不自然な点が認められ、それらに対する明確な回答が得られなかったことから、個別指導が中断となりました。

3 薬剤服用歴管理指導料の不適切な請求の自認
個別指導を再開したところ、薬剤師から、薬剤服用歴の記録に関し、ほぼ全ての患者について服薬指導の要点等を記録していないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を算定していたとの説明がなされました。そこで、調剤内容と調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が疑われたため、個別指導が中止され、監査に移行しました。

 

監査の結果、不正請求(例:薬剤服用歴の記録に、服薬指導の要点等の記載をしておらず、過去の薬歴に基づく服薬指導等を行っていないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を請求していました。)、不当請求(算定要件を満たさない調剤技術料及び薬剤料を不当に請求していました。また、処方せんが保存されていないにもかかわらず、調剤技術料、薬学管理料及び薬剤料を不当に請求していました。)の事実が確認され、この薬局と薬剤師は、保険薬局・保険薬剤師の取消処分となりました。

  

この取消事例の詳細は、情報提供の個別指導(薬局)のコラムが参考になります。

 

2 無資格調剤での薬局の取消し

厚生労働省東海北陸厚生局の公表資料によれば、薬局が不正請求(無資格調剤)で監査に至った経緯は以下のとおりです。ポイントは、無資格調剤について警察・検察が動き新聞報道がなされた事案であり、個別指導を経ずに直ちに監査が実施されたという点です。このように、刑事事件化している場合は、個別指導を経ずに、直ちに監査が実施されることがしばしば見受けられます。

1 警察からの無資格調剤の照会と書類送検の報道
東海北陸厚生局に、警察署から、保険薬局の無資格者の調剤に係る調剤報酬の保険請求行為について電話照会がありました。その後、警察が保険薬局の開設法人、代表者及び事務員3名を薬剤師の資格がない事務員に調剤させていたとして、薬剤師法と薬事法違反容疑で検察庁書類送検したという新聞報道がありました。この報道から、無資格者が行った調剤について、調剤報酬の不正請求が疑われました。

2 検察庁での無資格調剤の事実の確認
検察庁で開設法人の代表者と従事者の薬事法違反に係る訴訟記録を閲覧及び謄写したところ、事務員に調剤させたこと、本来は閉局している時間帯において、11回にわたり事務員に薬局を開局させ、管理薬剤師に実地に管理させなかったことを確認しました。

3 個別指導を経ず監査の実施
以上の状況から、調剤及び調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が強く疑われました。そこで、厚生局は、個別指導を経ることなく、監査を実施しました。

 

監査の結果、付増請求、無資格調剤(無資格者が行った調剤を保険薬剤師が行ったものとして、調剤報酬を不正に請求していました。)、調剤録への不実記載、調剤報酬の不当請求の事実が確認され、この薬局は、保険薬局の指定の取消相当となりました。

 

この取消事例の詳細については、無資格調剤の取消(薬局、薬剤師)のコラムが参考になります。