厚生局の個別指導、監査

保険医療機関等(医科、歯科、薬局、柔整)への指導監査の情報提供をします。

厚生局の新規個別指導について

1 開業医にとっての新規個別指導

新しい医院をはれて開設し開業した場合、最初の心配事の一つに、厚生局の新規個別指導がある医師の方が少なくないものと思われます。

 

きちんと適切に日々保険診療をしていれば、恐れる必要はなく、どっしりと構えて臨めばよい、というのが正論かもしれません。

しかし、新規個別指導のルールを知ることは、「再指導」などの結果を回避するために、役に立つものと思われます。再指導になってしまうと、個別指導がひかえているため、ディフェンシブな診療となり、診療が大きく委縮してしまう医師が稀ではありません。再指導を回避することは、円滑な経営に直結するものというべきです。

 

2 新規個別指導のコラムのご紹介

以上の見地から、新規指定を受けた保険医療機関に実施される、厚生局の新規個別指導の手続きについて説明するコラムをご紹介します。

 厚生局の新規個別指導、新規個別指導対応

 

上記の内容としては、

1 新規個別指導の対象医療機関の選定、実施時期

2 実施通知、指導用レセプトの抽出、対象患者の通知

3 新規個別指導当日の手続き

4 指導結果の通知、改善報告書、自主返還、

以上の流れで厚生局の基本的な扱いなどを説明するものとなっています。

 

厚生局の新規個別指導に際しては、「概ね妥当」または「経過観察」の結果となるために、ご活用いただければ幸いです。

医療機関における新型コロナウイルスと診療報酬請求

新型コロナウイルスが大きな問題となっており、関連する診療報酬の扱いの事務連絡がなされています。ここでは、そのいくつかをご紹介します。なお、指導監査や一般的な診療報酬請求の流れや留意点などについては、以下をご覧いただければ幸いです。

【個別指導の手続きの概要】

個別指導の手続き:対象医療機関の選定基準、選定方法

厚生局の個別指導(医科)の手続きの概要についての解説です。対象医療機関の選定基準や選定方法など、説明されています。基本的に、歯科・薬局も、医科と同様の手続きとなります。

保険診療の概説】

歯科保険診療の概説

厚生労働省の資料に基づく歯科保険診療の概説です。医科と歯科は基本的に同様の仕組みですが、気を付けるべきポイントで異なる部分があります。

厚生労働省のウェブページに最新の保険診療に係る概説資料が公表されていますので、必要に応じ、一読をお勧めします。

 

新型コロナウイルスに関連して国の要請に基づき外出を自粛している者に係る診療報酬の取扱いについて

令和2年2月6日事務連絡

問1

新型コロナウイルスに関連して国の要請に基づき外出を自粛している者であって医師等の診察が必要な者の求めに応じて、保険医療機関の医師等が宿泊施設に往診をせざるを得なかった場合、往診料は算定できるか。
(答)
算定できる。


問2

往診の結果、再度診療が必要と判断され、本人の同意を得て継続的に宿泊施設を訪問して診察を行った場合に、訪問診療料(歯科診療にあっては、歯科訪問診療料)は算定できるか。
(答)
算定できる。

 

新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて

令和2年2月14日事務連絡

問1

保険医療機関が、新型コロナウイルス感染症患者等を医療法上の許可病床数を超過して入院させた場合等は、どの入院基本料、特定入院料を算定するのか。
(答)
当面の間、以下の取扱いとする。
<原則>
実際に入院した病棟(病室)の入院基本料・特定入院料を算定する。


<会議室等病棟以外に入院の場合>
速やかに入院すべき病棟へ入院させることを原則とするが、必要とされる診療が行われている場合に限り、当該医療機関が届出を行っている入院基本料のうち、当該患者が入院すべき病棟の入院基本料を算定する。
この場合、当該患者の状態に応じてどのような診療や看護が行われているか確認できるよう、具体的に診療録、看護記録等に記録する。


<医療法上、本来入院できない病棟に入院(精神病棟に精神疾患ではない患者が入院した場合など)又は診療報酬上の施設基準の要件を満たさない患者が入院(回復期リハビリテーション病棟に施設基準の要件を満たさない患者が入院した場合など)した場合>

○ 入院基本料を算定する病棟の場合
入院した病棟の入院基本料を算定する(精神病棟に入院の場合は精神病棟入院基本料を算定。)。
ただし、結核病棟については、結核病棟入院基本料の注3の規定に係らず、入院基本料を算定する。
○ 特定入院料を算定する病棟の場合
医療法上の病床種別と当該特定入院料が施設基準上求めている看護配置により、算定する入院基本料を判断すること(一般病床の回復期リハビリテーション病棟に入院の場合は 13対1又は 15 対1の看護配置を求めていることから、地域一般入院基本料を算定。)。


問2

保険医療機関において新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れたことにより、特定入院料の届出を行っている病棟に診療報酬上の要件を満たさない状態の患者が入院(例えば回復期リハビリテーション病棟に回復期リハビリテーションを要する状態ではない患者が入院した場合など)した場合に、特定入院料等に規定する施設基準の要件についてどのように考えればよいか。
(答)
保険医療機関において、新型コロナウイルス感染症患者等を受け入れたことにより、特定入院料の届出を行っている病棟に診療報酬上の要件を満たさない状態の患者が入院(例えば回復期リハビリテーション病棟に回復期リハビリテーションを要する状態ではない患者が入院した場合など)した場合には、当面の間、当該患者を除いて施設基準の要件を満たすか否か判断する。

 

問3

新型コロナウイルス感染症患者等を第二種感染症指定医療機関である保険医療機関に入院させた場合、A210の2二類感染症患者入院診療加算を算定できるか。
(答)
算定できる。ただし、当該点数を算定できる入院基本料を算定している場合に限る。

 

問4

新型コロナウイルス感染症患者等を個室に入院させた場合には、A220-2二類感染症患者療養環境特別加算を算定できるか。
(答)
問3と同様に、算定できる。ただし、当該点数を算定できる入院基本料を算定している場合に限る。なお、A210の2二類感染症患者入院診療加算との併算定も、要件を満たせば可である。

 

問5

新型コロナウイルスの感染が疑われる患者が「帰国者・接触者相談センター」等に連絡し、その指示等により、200 床以上の病院で、帰国者・接触者外来等を受診した場合、初診時の選定療養費の取扱いはどうなるか。
(答)
この場合、「緊急その他やむを得ない事情がある場合」に該当するため。初診時の選定療養費の徴収は認められない。

 

 

事務連絡のご紹介は以上となります。

事務連絡は日々追加・更新されますので、厚生局のウェブページなどにより、必要に応じ常に最新の情報にキャッチアップすることが望まれます。

厚生局の保険医療機関への個別指導の実例(医科)

保険医療機関への指導監査を理解するためには、取消処分となったケースについて知ることが重要です。実例を知ることで、手続きの背景や意図などが推測できることがあります。

以上の見地から、実際に個別指導から監査となり、取消処分となった医科の医院、診療所の実例を3つご紹介します。

 

1 検査結果を廃棄したと弁解した取消しの実例

以下の事例について、簡単にご紹介、コメントをします。

 不正請求の患者の情報提供(通報):厚生局の個別指導

 

この事例は、近畿厚生局の処分です。

個別指導にのきっかけは、子供の患者の母親からの、厚生局に対する、受けた記憶がない処置、手術、検査が請求されているとの情報提供です。子供だから情報提供はないだろうと考える医師がいらっしゃるかもしれませんが、親は、むしろ、子供のために、より慎重に診察を観察しており、違和感があれば、子供のために、力を尽くす傾向があるかもしれません。たとえ、公費負担があり一部負担金の額が一定であるなどしたとしても、付け増し請求を行えば、厚生局に通報されることがあります。

厚生局は、上記の情報提供を受け、個別指導を実施したところ、検査結果などの持参が医院からありませんでした。医師は、廃棄したためと弁解しましたが、厚生局としてはそうではないだろうと、個別指導が中断されました。回顧的に検討すると、この時点で不適切な診療を認め謝罪していれば、場合によっては、監査とはせず、再指導で様子を見てくれたかもしれません。

その後、個別指導を再開し、不自然な点を改めて指摘し、医師が不正請求を認めることになりました。その後、監査に移行し、振替請求と付増請求の不正請求の事実が確認され、取消処分となりました。不正請求の金額としては、126万2366円ですが、この他にも、不正請求したものを自己点検し、自主返還が求められます。

 

2 死亡患者の診療報酬の不正請求での取消しの実例

以下の事例について、簡単にご紹介、コメントをします。

 死亡した患者の診療報酬不正請求:厚生局の個別指導

 

近畿厚生局の事例です。タイトルが示すとおりの内容となっています。いわゆる架空請求が疑われる場合、厚生局は厳しく対応してくる印象です。

 

市から、情報提供に基づきレセプトを点検した結果、死亡している患者について、その後も毎月、診療報酬が請求されているとの情報提供が、近畿厚生局に対しありました。死亡患者のレセプト請求は、死亡した直後であれば手違いなどあり得るかもしれませんが、このようなケースの場合は、その医院について、少なくとも不適切な状況が継続していることが窺われます。死亡した患者を診療することはできませんから、不正請求の言い逃れが困難な類型といえます(不正請求に、意図的であること、すなわち故意性は要求されていません。)。

個別指導が実施され、不自然な点が見受けられたため中断となり、指導が再開され、医師が、架空請求を認めたことから、監査に移行しました。架空請求のレベルになってしまうと、悪質性が高いと判断され、個別指導の当初の段階から医師が不適切な診療報酬請求を認め謝罪したとしても、監査になってしまっていた可能性が十分あろうかと思われます。

監査で架空請求及び付増請求を認定され、取消処分(取消相当)となり、75万0824円の不正請求金額が認定されています。

 

3 接骨院との不正請求での取消しの実例

以下の事例について、簡単にご紹介、コメントをします。

 医院の鍼灸院・接骨院との不正請求:厚生局の個別指導

 

近畿厚生局の事例であり、医師の医院が接骨院と連携して結託して不正を行い取消しとなった実例です。

近畿厚生局に、接骨院鍼灸施術所において診療行為を行っていることや、受診していない医療機関で受診したことになっている旨の情報提供がありました。また、受診した日数も水増しされているとの情報提供もありました。

そんな中、新聞で、上記の問題を指摘する報道がありました。厚生局は、報道がなされたり刑事事件化したりすると、重点的に対応する傾向があります。厚生局は、当該医療機関について個別指導を実施し、中断、再開の後に、監査に移行しました。回顧的に考えると、監査への移行ありきの、監査を前提とした個別指導の実施だったのかもしれません。

監査の結果、架空請求、付増請求などの不正請求が確認され、取消処分に至りました。監査で確認された不正請求の金額は、58万6520円です。

なお、医療機関のみならず、柔道整復師の施術所(接骨院整骨院)についても、医療機関へのものと異なる部分もあるのですが、厚生局の個別指導、監査の仕組みがあります。当該仕組みついては、以下のページの一群のコラムが参考になります。

 整骨院、接骨院への厚生局の個別指導と監査 

 

柔道整復師への個別指導・監査と医療機関への個別指導・監査の仕組みで、同様の点と違う点を知ると、厚生局の指導監査のより深い理解に繋がるかもしれません。

整骨院の個別指導、監査の実例

前回は、薬局、薬剤師への個別指導と監査、取消の実例について説明しました。今回は、薬局薬剤師ではなく柔道整復師(柔整師)、すなわち整骨院接骨院への、療養費の請求に係る個別指導、監査、中止の実例を2つ紹介します。

なお、柔道整復師の不正請求の問題については、厚生局による個別指導、監査の枠組みに加え、刑事事件での保険金詐欺の処罰の枠組みもあります。

整骨院接骨院への個別指導の今回の2つ以外の実例については、柔道整復師への個別指導、監査(厚生局)の末尾の一連のコラムが参考になります。

 

1 整骨院の不正請求、定額料金でのマッサージ

厚生労働省九州厚生局の公表資料によれば、整骨院が個別指導に至った経緯、監査に至った経緯は以下のとおりです。ポイントは、不正請求となる偽った負傷名を診療録に恒常的に記載して、定額でマッサージを行っていた点です。私見では、施術費用を施術内容にかかわらず定額としている整骨院接骨院が散見されますが、療養費の支給基準に反している場合がありますので、注意する必要があります。

1 九州厚生局への不正請求の情報提供
九州厚生局に、整骨院について、100円(定額)であんまを行っている、また、その他にも、不正をいろいろ行っている、との情報提供がありました。さらに、その後も、同様の情報提供が寄せられました。

2 一律の一部負担金徴収 
厚生局が、患者調査を実施したところ、負傷名(症状)について、支給申請書の記載内容と患者からの回答とに相違がみられました。具体的には、慢性的な肩こり、腰痛等に対する施術であると疑われたものが多数見受けられました。また、一部負担金の徴収額が一律(300円または100円)であるとの回答がほとんどでした。

3 単なる肩こりへのマッサージの療養費の請求
整骨院の施術所に対し個別指導を実施したところ、負傷原因と負傷部位について、施術録の記載内容と患者調査の結果とが相違している例が多数確認されました。そして、本来、療養費の支給対象とはならない、単なる肩こり等へのマッサージであるものを、療養費の支給対象となるよう偽った負傷名や負傷原因を付したうえで療養費の請求を行い、さらに、月々で負傷部位を変えながら初検料を算定していることが強く疑われました。そこで、個別指導を中断しました。

4 個別指導の中止、監査への移行
施術内容や療養費の不正請求等の疑義について事実関係を確認するため、中断中の個別指導を中止する旨を通知しました。そして、監査に移行しました。

 

監査の結果、実際には療養費の支給対象となる負傷ではないにもかかわらず、療養費の支給対象となるよう偽った負傷名や負傷原因を付して施術録に記載し、当該負傷に関し施術を行ったとして療養費を不正に請求していた事実が確認され、この整骨院柔道整復師は、受領委任の取扱いの中止となりました。

  

この中止の事例の詳細は、整骨院、接骨院の不正請求、100円のあんまのコラムが参考になります。

 

2 部位転がしでの不正請求

厚生労働省九州厚生局の公表資料によれば、整骨院柔道整復師について、個別指導を経ずに監査に至った経緯は以下のとおりです。ポイントは、無資格者施術について、警察が動きマスコミ報道がなされた事案であり、そのため、レセプトを点検の上で直ちに、個別指導を経ずに監査が実施されたという点です。また、受領委任の中止相当の理由について、無資格者施術に加え、部位転がしの不正請求が挙げられている点もポイントです。

1 整骨院柔道整復師逮捕の報道
柔道整復師の免許がないにもかかわらず、有資格者が施術を行ったように装い、患者が加入する社会保険から2万6千円をだまし取ったとして、整骨院の開設者が柔道整復師法違反と詐欺の疑いで、また、当時の施術管理者が詐欺の疑いで、警察に逮捕されたとの報道がなされました。

2 不正請求(部位転がし)での監査の実施
保険者から支給申請書の写しを取り寄せ点検した結果、複数の患者について、数か月おきに負傷部位が変わり、負傷と治癒を繰り返す施術、いわゆる「部位転がし」により長期間にわたり不適切な療養費の請求を繰り返していることが確認されました。そこで、厚生局は、個別指導を経ずに、監査の実施に踏み切りました。

 

監査の結果、無資格者施術(柔道整復師の資格を有しない者が行った施術について、療養費を不正に請求していました。)、いわゆる部位転がしの不正請求(実際には療養費の支給対象となる負傷ではないにもかかわらず、療養費の支給対象となるよう偽った負傷名や負傷原因を施術録に記載(入力を含む。)し、当該負傷に関し施術を行ったとして療養費を不正に請求していました。)、施術書類の保存義務違反(受領委任の取扱いを行っていた期間の施術に関する帳簿及び書類を保存していませんでした。)の事実が確認され、この整骨院柔道整復師は、受領委任の取扱いの中止相当となりました。

薬局の個別指導、取消しの実例

前回は、歯科の診療所、歯科医院への個別指導と監査、保険医の取消の実例について説明しました。今回は、歯科ではなく薬科、すなわち薬局への、保険調剤に係る個別指導、監査、取消処分の実例を2つご紹介します。

なお、薬局の行政処分については、厚生局による個別指導、監査、指定の取り消しの一連の枠組みに加え、保健所・都道府県による業務改善命令、業務停止命令の処分の枠組みにも、十分に留意することが必要です。薬局への保健所や都道府県による行政処分(業務改善命令、業務停止命令)についても、必要に応じ、確認等することが求められます。

 

1 情報提供での個別指導の実例

厚生労働省九州厚生局の公表資料によれば、薬局への個別指導の実施の端緒、そして薬局が監査に至る経緯は以下のとおりです。ポイントは、情報提供による個別指導があり、いったんは監査とならず再指導で済んだものを、その後、改善ができず、改めることができず、不正請求を継続したため、監査となり、取消しに至ってしまった、という点です。再指導となった場合は、当然ながら、厚生局からの指導での指摘事項をあらため、適切な保険調剤請求を行うことが肝心です。

1 景品の配布、一部負担金の減免の情報提供による個別指導
景品などの配布、そして一部負担金の減免が行われているとの情報提供が、厚生局に対してありました。そこで、個別指導が実施され、その際は監査への移行はなかったものの、その後も、毎年度、個別指導が実施されていました。

2 不自然な薬剤服用歴の記録のための個別指導の中断
その薬局に対して個別指導を実施したところ、お薬手帳へ貼付または記載をすることなく、手帳用シールを提供(手交)したのみ(この場合、34点)であるにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料(お薬手帳へ手帳用シールを貼付または記載をした場合、41点)を一律に算定しているとの説明がなされたこと、薬剤服用歴の記録について不自然な点が認められ、それらに対する明確な回答が得られなかったことから、個別指導が中断となりました。

3 薬剤服用歴管理指導料の不適切な請求の自認
個別指導を再開したところ、薬剤師から、薬剤服用歴の記録に関し、ほぼ全ての患者について服薬指導の要点等を記録していないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を算定していたとの説明がなされました。そこで、調剤内容と調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が疑われたため、個別指導が中止され、監査に移行しました。

 

監査の結果、不正請求(例:薬剤服用歴の記録に、服薬指導の要点等の記載をしておらず、過去の薬歴に基づく服薬指導等を行っていないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を請求していました。)、不当請求(算定要件を満たさない調剤技術料及び薬剤料を不当に請求していました。また、処方せんが保存されていないにもかかわらず、調剤技術料、薬学管理料及び薬剤料を不当に請求していました。)の事実が確認され、この薬局と薬剤師は、保険薬局・保険薬剤師の取消処分となりました。

  

この取消事例の詳細は、情報提供の個別指導(薬局)のコラムが参考になります。

 

2 無資格調剤での薬局の取消し

厚生労働省東海北陸厚生局の公表資料によれば、薬局が不正請求(無資格調剤)で監査に至った経緯は以下のとおりです。ポイントは、無資格調剤について警察・検察が動き新聞報道がなされた事案であり、個別指導を経ずに直ちに監査が実施されたという点です。このように、刑事事件化している場合は、個別指導を経ずに、直ちに監査が実施されることがしばしば見受けられます。

1 警察からの無資格調剤の照会と書類送検の報道
東海北陸厚生局に、警察署から、保険薬局の無資格者の調剤に係る調剤報酬の保険請求行為について電話照会がありました。その後、警察が保険薬局の開設法人、代表者及び事務員3名を薬剤師の資格がない事務員に調剤させていたとして、薬剤師法と薬事法違反容疑で検察庁書類送検したという新聞報道がありました。この報道から、無資格者が行った調剤について、調剤報酬の不正請求が疑われました。

2 検察庁での無資格調剤の事実の確認
検察庁で開設法人の代表者と従事者の薬事法違反に係る訴訟記録を閲覧及び謄写したところ、事務員に調剤させたこと、本来は閉局している時間帯において、11回にわたり事務員に薬局を開局させ、管理薬剤師に実地に管理させなかったことを確認しました。

3 個別指導を経ず監査の実施
以上の状況から、調剤及び調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が強く疑われました。そこで、厚生局は、個別指導を経ることなく、監査を実施しました。

 

監査の結果、付増請求、無資格調剤(無資格者が行った調剤を保険薬剤師が行ったものとして、調剤報酬を不正に請求していました。)、調剤録への不実記載、調剤報酬の不当請求の事実が確認され、この薬局は、保険薬局の指定の取消相当となりました。

 

この取消事例の詳細については、無資格調剤の取消(薬局、薬剤師)のコラムが参考になります。

歯科の個別指導、取消の実例

前回は、医科の保険医療機関、診療所への個別指導・監査・取消の実例について説明しました。今回は、医科ではなく歯科の医療機関、歯科医院での、個別指導、監査、取消処分の実例を2つご紹介します。

なお、歯科の個別指導、監査の実例は、歯科の弁護士、歯科医院の法律相談での一連のコラムが参考になります。

 

1 不正請求(振替請求)での取消しの実例

厚生労働省九州厚生局の公表資料によれば、歯科医院について、個別指導から監査に至る経緯は以下のとおりです。ポイントは、患者の氏名の記載のない不自然な技工物指示書を個別指導に持参したことと、歯科技工所から納品された実際の有床義歯と違う内容で診療報酬を請求していたことを歯科医が認めたことと思われます。

1 患者氏名の記載のない技工物納品書
保険医療機関に個別指導を実施したところ、当該保険医療機関は歯科技工物の製作を歯科技工所に依頼していたが、当該歯科技工所から歯科技工物の納品の際に併せて持参される技工物納品書に、患者の氏名の記載がありませんでした。そのため、個々の患者の歯科技工物の形態・使用材料等について確認ができませんでした。そこで、技工物指示書に記載されている全ての患者の氏名を特定するよう歯科医に対し厚生局が指示し、個別指導の中断となりました。

2 不正請求というべき不適切な診療報酬請求の自認
保険医療機関に対し個別指導を再開したところ、歯科技工所から納品された実際の有床義歯と相違する内容で診療報酬を請求していたことを歯科医師が認めました。また、その後の患者調査において、患者の供述または口腔内所見と診療報酬明細書の請求内容とが相違し、不正請求が強く疑われました。その結果、監査に移行しました。

  

監査の結果、付増請求(例:製作していない鋳造鉤、鋳造バー、保持装置の費用を請求していました。)、振替請求(例:人工歯数が4歯の有床義歯を5歯の有床義歯としていました。レジン歯を硬質レジン歯としていました。フック、スパーとして請求すべきレストを鋳造鉤としていました。)、不当請求(算定要件を満たさない医学管理等並びに歯冠修復及び欠損補綴に係る診療報酬を不当に請求していました。)の事実が確認され、この歯科医師は、保険医の取消処分となりました。

 

この取消事例の詳細は、不正請求(振替請求)での保険医の取消しのコラムが参考になります。

 

2 付け増しによる不正請求での取消しの実例

厚生労働省東北厚生局の公表資料によれば、歯科医院の歯科医師の取消の理由は、以下のとおりです。このケースは、歯科医が、保険適用外のブリッジを保険請求していたなどの理由により取り消し処分となっています。保険診療と自費の治療については、二重請求などで不正請求をしてしまい取消に至るケースが散見されます。保険診療と自費診療の区別・取扱いは、混合診療について正確な理解をするとともに、慎重に対応する必要があります。

1 付増請求
有床義歯修理の算定時に、実際には行っていない印象採得と咬合採得の費用を保険医療機関に不正に請求させていました。

2 振替請求
鋳造バーの製作を屈曲バーの製作としていました。

3 保険適用外のブリッジの保険請求
保険適用外の延長ブリッジを製作し装着したにもかかわらず、保険適用の延長ブリッジを製作し装着したとして診療録に不実記載し、保険医療機関に診療報酬を不正に請求させていました。

 

この取消事例の詳細については、自費と保険の二重請求のコラムが参考になります。

保険医療機関(医科)の取消の実例

前回は、薬局・薬剤師への個別指導・監査の対応などについて説明をしました。

今回は、実際に個別指導から監査となり、取消処分となった医科の保険医療機関である医院、診療所の実例を2つご紹介します。

保険医療機関の指定の取消事例については、その地域の厚生局のホームページで(一定期間)公表されています。

 

1 後発医薬品を先発医薬品とした取消しの実例

厚生労働省近畿厚生局の公表資料によれば、監査に至る経緯は以下のとおりです。ポイントは、初回の個別指導で診療録の持参が不十分であったことと、再開後の個別指導で、後発医薬品の先発医薬品への振り替えを認めたことと思われます。

1 匿名の者からの情報提供
匿名の者から、厚生局の指導監査課に対し、以下の情報提供がありました。
①薬剤情報の文書を提供していないにもかかわらず、薬剤情報提供料を請求している
②定期的に薬のみ受け取りにくる患者に診察せずに調剤し、再診料等を請求している
③実際には月1回の診療で28日分の調剤をしているにもかかわらず、月2回の診療とし、14日分ずつ調剤したものとして再診料等を請求している
④実際に受診した患者に、患者の知人の薬剤も合わせて調剤のうえ手渡したにもかかわらず、知人を診察したものとして再診料等を請求している

2 個別指導の実施と個別指導の中断
以上の情報提供に基づき個別指導を実施しました。すると、指導対象患者の診療録の一部について持参がなく、また、医薬品の納品伝票又は請求書から購入実績が確認できない医薬品について、医師から明確な回答が得られませんでした。そこで、個別指導の中断となりました。

3 個別指導の再開と監査への移行
個別指導を再開し尋ねたところ、医師が後発医薬品を先発医薬品に振り替えて診療報酬を不正に請求していたことを認めました。そこで、個別指導が中止となり、監査に移行しました。

 

監査の結果、架空請求、付増請求、振替請求、二重請求の事実、そして、診察をせずに調剤し、診療報酬を不正に請求していた事実が確認され、この医師は、保険医の取消処分となりました。

 

この取消事例の詳細は、厚生局の個別指導(不正請求の情報提供)のコラムが参考になります。

 

2 個別指導の中断、中止の上での監査、取消しの実例

厚生労働省近畿厚生局の公表資料によれば、監査に至る経緯は以下のとおりです。このケースも、上記1の事例と同様に、匿名の者からの情報提供を端緒とし、個別指導が実施されています。ポイントは、初回の個別指導での持参物について書類間の矛盾・齟齬が散見されたことと、不正請求と判断されるべき不適切な保険診療を認めたことと思われます。

1 一部負担金の徴収漏れなどの情報提供
匿名の者から、厚生局の指導監査課に対し、以下の情報提供がありました。
①当該医療機関は患家に訪問していないにもかかわらず、在宅患者訪問診療料を請求している
②月に1回しか訪問診療をしていない患者に2回訪問診療したものとして、在宅時医学総合管理料を請求している
③看護師が薬を患家に届けただけで訪問診療料を請求している
④患者から一部負担金を全額徴収していない

2 不適切な保険診療の自認
個別指導を実施したところ、以下の理由から、個別指導の中断となりました。
①診療録に記載された診療日数より診療報酬明細書の請求日数が多い事例が散見されたこと
②出勤簿に医師の押印がないにもかかわらず診療録には診療の記録が記載されていた事例が散見されたこと
③処方せんを従業員が特定の薬局に持ち込んでおり、調剤された薬剤を診療所から患家に持参していた旨の申述があったこと
④一部負担金は3,000円の定額を徴収している旨の申述があったこと

3 個別指導の再開後の再度の自認と監査への移行
個別指導を再開したところ、開設者が、医師が診療を行っていないにもかかわらず診療報酬を請求したこと、処方せんを患者に交付せず看護師が薬局に持ち込み受け取った薬剤を患家に持参した場合でも在宅患者訪問診療料を請求していたことを認めました。その結果、診療報酬を不正に請求していることが濃厚となったため、個別指導が中止され、監査に移行しました。

 

監査の結果、付増請求の事実が確認され、この医師は、保険医療機関の取消相当となりました。